主にネタバレ&感想 ガン×2発売日直後は要注意 制作日誌もちょろり 無精なので出現率低し
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ポッと浮かんだので書いてみました。
マクロスf【アルシェリ】で短いお話をひとつ。
他サイトさんの素敵作品だけでは足りず、自分自身でも補完ですよ。
あまりに不遇なもんで…もう泣けちまってな(号泣)
鋼でなくてごめんなさいっ(謝)
あちらは誠意創作中でありマスデスヨ……。
ご興味がある方は、折りたたみOPEN☆
三星学園の編入試験は、実技と教養の厳しい審査が行われていることでも有名で、少しでも適正無しとみなされれば即不合格となるほどの狭き門だ。
そんな編入試験に【芸能科】ではなく、あえて【航宙科】を選んで受験したシェリルには、パイロットに対しそれなりの適正があるとみなされたのだろう。
実際、彼女は授業を真面目に受け、忙しい最中でも予習と復習を忘れず、課題にもしっかりと着いてきている。始めのうちは、女王様の気まぐれだと思って斜めに構えていたアルトも、最近はシェリルのその努力を認めつつあるようで、空の話など嫌な顔をせずに付き合うことも多くなった。
そんなある日の放課後、帰り支度を始めたアルトにシェリルが突然(彼女のする事に予定という文字があった事は稀だ)行きたい場所が出来たから付き合え、とアルトのショルダーを引ったくり、そのまま廊下へと出て行ってしまった。
アルトも、シェリルのこの手の提案には、自分に拒否権が発生しないのを嫌でもわかっている。
大きく長い溜息を、ウンザリだと誰もがわかるような表情で吐く。
すると、一足も二足も早くに出て行ったはずのシェリルが教室の入り口から顔を覗かせ「とっとと来なさい。私を待たせるなんて1億年早いわ!」とアルトをせっついた。
*:*:*:*:*
「さぁ、ここよ!!」
自信に満ちた立ち姿は、アルトを脱力させるに十分過ぎるほどの破壊力を持っていた。
彼女が立ったその場所は、学園最寄のステーション前にあるゲームセンターだったからだ。
無理やり連れてくるほどの場所なのだから、どれだけご大層なところかと思いきや、ミシェルやルカとも来たことのある、本当に何の変哲もない普通のゲームセンターだった。
ふと気がつくと、特徴的なストロベリーブロンドの大部分をベレーに収めても尚、小声ながらもシェリル・ノームだと彼方此方から声が上がりはじめていた。周囲がパニックになっては困ると慌てたアルトは、シェリルの手を引き、半ば強引に件のゲームセンターへと足を踏み入れた。
「お前なぁ、こんなトコに俺を連れてきてどうするつもりだよ。『ヌイグルミとってーv』とか
恐ろしく普通の女子並みのコト言い出したら承知しないぞ」
「何それ、どういう意味よ!? 私が一般的女子のようなカワイコ発言したら気持ちが悪いって言
うわけ?」
「そこまで言わないが、調子は確実に狂う!」
軽口を飛ばし、時には奴隷か召使のようにアルトを扱うことも多いこの女王様は「失礼だ」と不満げな声色で言いながらも、その表情は柔らかく優しい。
ステージやグラビアで魅せるシェリル・ノームでもない、学校生活で見せるシェリル・ノームでもない、早乙女アルトただ一人に向けるための表情であることは一見しただけではわからないであろう。そばにミシェルのような他者を見抜く眼力を持つものがいれば、その表情の僅かな揺らぎもお見通しなのだろうが、幸か不幸か、そばにいるのは超が付くほどの鈍さを誇るアルトだ。
恐らく普通の人間でも、彼女の心の揺れはそう単純に見破れるものではなだろう。
それほどまでに、彼女はこの世界で本音を隠す事に慣れすぎていた。
「大丈夫よ、そんな頭の悪いこと言わないから」
彼女らしい辛口のくだりでアルトの一言を一蹴すると、シェリルは足取りも軽く店の奥まで進む。
そこにはゲームとは縁遠い仕様の巨大なシミュレーターが置かれていた。
「今度の航空科の課題は、EXギアでのフライトシミュレーションとその実技でしょ? 今からそ
れをこのシミュレーターで形にしたいのよ。」
「だったら別にここでなくても、学校のシミュレーター使えばいいじゃないか」
学校のシミュレーターは最新式ではないものの、以前は軍で使用されていた本格的なものだ。
そのプログラム関係はルカが改修・システムアップなどの改善を行っているため、こんなゲーセンに置かれているような甘い設定のものではなく、より実践的な訓練結果が期待できるものだった。
それをなぜ、あえて金を注ぎ込んでこんなオモチャ(アルトに言わせれば、だ)で練習などと。
「お黙りアルト。こういう事は影で努力する事に意味があるのよ」
学校のシミュレーターは、実際の飛行と同じようにフライトレコーダーが付いていて、その内容がその都度、生徒のパーソナルデータブックに記録されてゆく仕組みだ。
誰もが努力と訓練を重ねて、操縦に磨きをかけていることはシェリルも大いに知るところなのだが、だからといって、あまりに無様なデータが書き加えられてはシェリル・ノームの名に傷が付くと思っているのだ。
「あのなぁ、その訳のわからない努力とプライドに、俺をつき合わせるのはいい加減やめろ」
「いいじゃない、別に。どうせ暇なんでしょ?」
「俺にだって色々しなきゃいけない事があるんだ。いつでも暇って訳じゃない」
「じゃぁ、色々って?」
「うっ……」
「ほぅら、やっぱり暇なんじゃない」
してやったりといった様子でアルトに詰め寄ると、その胸元を人差し指で小突く。
正面から寄り添うように張り付き、上目遣いで迫るシェリルに、いつもの如くアルトはたじろいだ。
「アドバイスしてくれる人が必要なのよ。他の人には頼めないわ」
それに…と前置きをしつつ、胸元の人差し指をぐりぐりと押し付けながら小声で呟いた。
「来てみたかったのよね、ゲームセンター。だって楽しそうだったんですもの」
人の本音に疎いアルトでも、今回は察しはついた。
恐らく、本音は後者だ。
妙に可愛いところもあるもんだと、口にしたら怒りを買うだけだろう。
どんな仕返しをされるかわかったものではないので、その一言は腹に収め、大人しくその建前に従う事にした。
*:*:*:*:*
「なんだかパッとしないのよね」
「まぁそうだろうな」
何度か擬似フライトをしてみたが、どうしても納得がいかないらしい。
それもそのはずで、もともと一般人が操縦する事を前提として作られているため、操作技術における操舵性が大分緩く設定されていた。
授業では、それなりにピーキーなプログラミング下での操作が主なのだが、逆にこのシミュレーターは多少ミスした程度ではコントロールに反映されないのだ。
しかもシミュレーターは、ある程度のGも再現できるようになっているため、結果的に出力される最大速度が抑えられているというのもひとつの要因だろう。予備知識もない一般人が、なんの装備もない状態で操作すれば、いくらシミュレーターでも怪我ではすまない。下手したら装置自体にそこまでの強度が保障されていないことも考えられるため、本体が故障してしまうかもしれない。
「1Gすら出ないだなんて」
予想と違う操作性に、シェリルは落胆の色を隠せない。
逆にアルトからしてみれば、こういった展開はある程度予測はついていた。
一般人でも操作可能なシミュレーターで慣らしてさえおけば、学校所有のシミュレーターでもソコソコの結果は出せるはずだ。
だが、シェリルは『そこそこ』の結果は望んでいない。
自分が出来る最大以上の事を、その更に上を行く努力と根性でやってのけてきた彼女だからこそ、このそこそこの結果しか出せなのが歯がゆくて仕方がない。
その場で思案すること、約5分。
「ねぇアルト。ルカ君の端末番号知ってる?」
「勿論知ってるが…それがどうかしたか?」
四の五の言わずに貸しなさい!と、素早くアルトの尻のポケットに収まっていた端末を引き抜くと、慌てて引き止めに入るアルトを背面で押さえながら、慣れた手つきで端末を操作する。
ホログラムにCallサインが出たところで、観念したのか奪還を諦めたアルトが小さく溜息を漏らしたのと同時に、ルカがホログラム画面に現れた。
「どうしたんですか先輩…って、あれ?シェリルさん?」
「こんにちは、ルカ君。いきなりで悪いんだけど、ちょっと頼まれ事してくれないかしら?」
どうしてこいつは俺以外には異様に親切なんだ?と、自分の立ち位置に不満がでる。
妙に余所行きのような声を、アルトは落ち着かない様子で聞いていた。
「ゲーセンに置いてあるVF-171タイプのシミュレーターって知ってる?」
「はい、知ってますよ。父の会社がそのプログラムの監修をしましたから」
「だったら話は早いわ!」
シェリルの次の言葉に、アルトは自分の耳を疑った。
「そのシミュレーターのリミッター切りたいの。プログラム書いてこの端末に送ってくれる?」
「ばっ……ちょっと待て!お前何考えてんだ!!」
授業でG制御の重要度を学んでいるだけに、その危険性は十分判っているはずだ。
いくらシミュレータだからと、耐Gスーツも無しに音速越えをしたら、その身体にどれほどの負担がかかるか。
そんな事をして万が一怪我でもしたら
背中を向けているシェリルの肩をグイと掴むと、やや無理やり振り向かせた。
見上げてくる二双の強い蒼が、絶対に譲れないと語りかけてくる。
「だから!そんな危険なことするくらいなら、学校のを使えとあれ程…!」
すると、端末から「落ち着いてください、先輩」とルカが話しかけた。
「大丈夫ですよ。速度と操作性はリミッターを切る設定にしますが、速度体感プログラムは現行のまま維持させるようにしますから」
それを聞き、ホッと胸をなでおろす。
まったく、予想だにしない事をしでかすから目が離せない。
いきなりの思い付きで行動するのは勘弁して欲しいと心底思う。
冷や汗をかくのは、お前じゃなくて俺なんだぞ?
胸の辺りに何か違和感がある事に気づき視線を下げると、シェリルが端末をグイと押し付けている。
「貸してくれてアリガト」
受け取ろうとしたところで、シェリルは意図的に端末を手放す。
重力に逆らわずに落ちた端末を、まるでお手玉をするように受け取ると、アルトはさっきのものとはまた別の冷や汗をかいた。
いつの間にか話はついていたようで、端末を受け取ると同時にルカから圧縮プログラムが送られてきた。解凍してみると、中身は改良プログラムと基本プログラム一種ずつのようだ。
一先ずコクピット部分に座り、指示された場所のカバーを外して端末のコネクターを繋いだ。
すぐさまプログラムを走らせ、リミッターを切る作業に入る。
シェリルには係員が来たら知らせてくれるよう、見張りに立ってもらっていた。
何で俺がこんな危ない橋を渡らねばいかんのだと小声で文句を垂れていると、外からシェリルが話しかけてきた。
「ねぇ」
いきなり声をかけられて、アルトは慌てた。
後で元に戻すとはいえ、後ろ暗い事をやっていることには変わりはない。
係員が来たのかと身構えると、そうではないらしい。
「あの機械は何かしら?」
急に話しかけてくんな!と抗議するも、シェリルはどこ吹く風だ。
なにやら子供のような調子で話しかけてくるので、半ば投げやりな態度で「どれだ?」と訊いてみる。
「ほら、あのオーロラカーテンがかかってるブースよ」
プログラムがシステムチェックに入ったところで、アルトがちらと外に視線を向けた。
シェリルが指し示す先には、フォトデータを端末やフォトフレームに入力して楽しむことの出来る、ゲームとはまた違う娯楽性の高い端末が並んでいた。
学生に人気が高く、ティーンの間では友達や恋人などの間でデータの交換をするなど、必須アイテム化している超ロングセラー人気娯楽端末だ。
「要は、あそこで撮影したデータを平面や立体加工して、端末やフォトフレームに入れ込んで何時
でも持っていられるっていう寸法だな」
「ふぅ~ん、なるほどね……恋人たちがモデリングされたデータを持ち歩いて、好きなときに好き
な人を眺められるわけね。結構ロマンティックじゃない」
プログラムも最終チェックに入り、やっとロード完了したところで、シェリルがコクピット部分に身を乗り出して言った。
「ねぇアルト。私達も後であれでモデリングしてみましょうよ!」
「なっ…!?…お、お前一人でやってこいよ。俺は…ああいうのは苦手だ」
「やだ、ちょっと何!?
シェリルはクスリと笑って、アルトの困った表情を楽しむような視線で言う。
「私は【友情の証】として撮りましょうよって言ってるのよ」
別に他意はないわ。
そういって、さらにアルトを追い込む。
「へぇ、俺とお前の間に友情なんて美しい関係があったのか?そりゃ知らなかった」
負けじと反撃を試みるアルトであったが、彼の意図する方向とは別に作用してしまったらしく、逆にシェリルは不敵な笑みを浮かべ、スルリとその身体をコクピットへと滑り込ませてきた。
光源が計器類のディスプレイしかない空間に、彼女の表情は妖艶に映える。
「ふぅん……じゃぁ、どんな関係?」
この狭い空間に馬乗りになられては逃げる場所すらない。
否応無しに意識せざるを得ない状況に、生唾を飲む音が耳の後ろでうるさく跳ねた。
クレジットを入れていないシミュレーターの中は、待機電力のみで空調すら利かない。
途端に2人分の体温でコクピット内はむせ返り、淡いローズノートが鼻先をくすぐる。
シェリルの手が肩に掛けられると、腿から腹、胸へと徐々に躯が重ねられてゆく。
感じるな感じるな感じるな感じるな!!!!
頭の中で、何かの呪文のように唱え続ける。
思わぬ息苦しさに我に返ると、無意識に息を詰めていた事に気づき、顔を背けながら慌てて大きく息を吐いた。
一息ついたのもつかの間、細くて当たりの柔らかい指先が前髪を撫で上げると、頬についと手が掛けられ、美しく生え揃った睫が目の前で伏せられていく。
おずと片手をシェリルの背に乗せると、一瞬彼女の身体が跳ねた様な気がした。
身体の奥で何か熱いものが疼く。
そして、唇が触れる瞬間
目の前にあった影が急に消えたと思ったら、頬に柔らかな感覚と耳元に「ちゅ」と軽い音がした。
それを両頬に2回ずつ交互にされると、身体にかかっていた重みが一気に抜ける。
「びっくりした? フランス式の挨拶で【ビズ】っていうのよ」
したり顔のシェリルに、思わずアルトは脱力する。
一瞬でもそそってしまった自分が情けない。
「馬鹿だ……俺は馬鹿だ……」
頭を抱えるアルトに対して、シェリルは何やら含んだ笑い声をたてた。
「だからお前は俺で遊ぶなとあれほど!!」
「遊んでないわよ?ちょっと挨拶しただけで。」
「あーーーーもう止めた!今後一切、俺はお前を信用するのを止めるっ!!」
あーっもうっ!!とヤケになった瞬間、軽い作動音と共に、一瞬強い光が辺りを包んだ。
「シェリルお前っ、今度は何をした!」
「あら、どうしても知りたぁい?」
シェリルは驚異的なスピードで端末を操ると、ズイとアルトの眼前に差し出した。
「この情けない顔を待ち受けにされたくないのなら、私と一緒にワンカット撮影して、このデータ
に上書きさせるしかないわね」
「お前、ちょっとそれはズルくないか!?」
「そんな事ないわよ。救済の道は残されているでしょ?」
「貸せ!いいからその端末を貸せ!!」
強引にシェリルの端末をひったくり、待ち受けにされた画像を削除しようとするも
「惜しいわね。その画像、削除するにはパスワードが必要なのよ」とバッサリと切られた。
まさに手も足も出ない。
別にそんな画像の一つや二つ持っていかれても痛くは無いのだが、万が一それがミシェルやランカ達に知れたら、シェリルがこの顛末を面白おかしく報告する可能性も多分にある。
特にミシェルに知れたら、何かある度にからかわれ、ネタにされること請け合いだ。
それだけは絶対に避けねばならない。
「……判った。一回だけだからな」
アルトは苦渋の選択をするしかなかった。
そっぽを向きながら吐き捨てるように言った言葉だったが、思いがけず好感触だったようだ。
シェリルは途端に輝くような笑顔全開で「ありがとう、アルト!!」と叫び、両手を首ヘきゅぅっと巻きつけ、力いっぱい抱きついてきた。
狭い座席に押し付けられ、息苦しさと熱気で息も絶え絶えだ。
「判った!判ったって!!頼むから離れてくれお願いだから!!!」
張り付いたシェリルを引き剥がしながら、これ以上俺をからかわないでくれと懇願するアルトだった。
*:*:*:*:*
「へぇ、背景とかも色々選べるのね!」
嬉々として機械を操作するシェリルの後ろで、アルトは興味無さ気に突っ立っていた。
小さな頃から他者に観られ、被写体になることも多かった自身としては、あえてレンズに納まろうなんて考えを日頃から持つ事は無かった。
特にシェリルの場合、トップアーティストとしての地位を確立しているだけあって、自分自身が商品である事を大いに自覚しているはずなのだ。おいそれと簡単に被写体になるほど迂闊者ではない。
ところが何を考えたのか、一緒にモデリングデータに収まろうと言い出した。
単なる気まぐれでは片付けられない何かがあるのかもしれないと思うのだが、一体何が彼女をそうさせているのか、アルトにはさっぱり考え付かなかった。
ゲーセンに来てみたかったと言う理由だけだったら、他にも興味をそそるようなものが山ほどあるのに、これにこだわる理由も無いと思うのだが。
ホログラム画面に向かい、あれこれと操作し、選んでいく。
暫くしてから小さな笑い声を立てると、これでOK!とEnterを選択した。
シェリルが振り返ると、ベレーから細く垂らされた髪の房が、その動きに合わせて淡いピンクゴールドの筋を描く。
アルトとシェリルを包む空間が、足元から上に向かって、淀みなく映像が変化してゆく。
青空と、星空の間。
蒼が徐々に変化し、深い紺へと変わるその境が周囲に広がった。
足元には筋がかった雲がゆっくりと移動し、深紺の星空には無数の星ぼしが輝いている。
「本物には敵わないかもしれないけど、こういう景色も悪くないと思わない?」
すっかり変化しきったその空間を、シェリルはうっとりと見入っていた。
「素敵……EXギアも使っていないのに、本当に空を飛んでいるみたい」
青空と星空の境に広がる朱の帯を眺めたあと、視線をアルトに移すと頬をほころばせた。
あのときの空みたいね、と。
そういえば、無茶をして危うく地上に落ちそうになったシェリルを間一髪のところで抱きかかえ、そのまま夕暮れの空を燃料切れ寸前になるまで飛び続けた事があった。
あのときの空も、そう言われればこんな感じだったかもしれない。
「でも、あの空も作り物だ。これと変わらないのも納得がいく」
その答えに、シェリルは更にGOボタンを押しながら「いいのそれでも。作り物でも何でも、私の心に残ったのならそれでいいのよ」と、アルトのロマンのかけらも無い発言にすら淀む事はない。
足元に立ち位置を示すサインが表れると、シェリルはアルトの片腕を引っ張り、2人でそのサインの中心に立った。腕を絡め、張り付くように隣に擦り寄るシェリルに照れながらも、アルトは正面に据えられたモニターをチェックする。折角写るのだったら、それなりに身なりには気をつけたい。
その様子を覗き込むように見るシェリルに気づくと、途端に顔を赤くしながら「正面向いてろって」と照れ隠しもバレバレな一言を口にした。
準備はいいかなぁ~?撮影まであと10秒だよ!
「ねぇアルト。これって友情だと思う?」
「は?」
もうすぐ撮影だよ! 身だしなみは大丈夫? 素敵な笑顔であと5秒!
「実はね……さっきのアレ、ちょっと惜しかったかも」
「からかっても駄目だぞ。お前のその手の話は、信用しない事に決めたんだ」
…… 3! 2! 1!
すっかり油断した。
シャッターが切られるほんの手前、後頭部に下向きの力がかかり、片頬に手が添えられたかと思ったら一気に横に向けられた。視界一杯に広がったのがシェリルの髪だったと気づくまでに、一瞬とも永遠ともつかない時間がかかった。足元にはベレーが転がり、複雑な色を見せるたっぷりとした髪が頬や腕をくすぐる。
唇に触れた柔らかさに答える間もなく、その感触は僅かに唇を濡らし、甘い香りと共に軽い音を立てて離れていった。
本当に一瞬の出来事。
シェリルのその電光石火ともいえる早業に、アルトは抗う統べを持たなかった。
後頭部や頬にあった手がゆっくりと離れてゆく。
それが少々残念だと思った事は、シェリルには内緒だ。
しばし互いに見つめあったまま動けずにいたが、程なくしてシェリルはおどけた様子でアルトから離れるとバッグから端末を取り出した。
「さぁて、上書きしなきゃ!折角待ち受けにするんだから、これくらいの事はしないと」
「ちょっと待て!今のを待ち受けにする気か!?」
それは正気なのかと問うと、至極正気だと返される。
「当たり前じゃない。何で撮ったと思ってるのよ」
呆然とするアルトに対し、鼻歌交じりでそそくさと端末のケーブルを装置に挿し、データをダウンロードするシェリル。ダウンロードしたデータを早速端末に反映させ、満足そうにその画像を眺めている。
その端末の映像を見て、アルトはギョッとした。
2次元画像かと思ったら、よりにもよって3次元加工してあったからだ。
適度に縮小され、立体的に浮かび上がるそれは、待ち受けとして設定されたからには、そこに立体像を結んだまま暫し人目に晒されるという事だ。
電子カーテンの幕を掻き分け出て行こうとする肩を掴み
「なんだったらもう一回撮ってやってもいいぞ?」
と不自然なまでに微笑むアルトだったが、その思惑は空振りに終わった。
「だって一回だけだぞって言ったじゃない」
「気が変わった!もう一回撮りたい!!」
「嫌よ。これ結構気に入ってるの」
「それより、こんなもの撮っちまっていいのか?データが装置内に残るぞ」
だからほら、もうちょっと撮りようがあるんじゃないか?とこれでもかと食い下がる。
「それなら心配ないわ。私には情報戦に長けた、超一流の敏腕マネージャがいるもの」
そう言いながらシェリルはアルトの尻ポケットに手を掛け端末を取り出すと、ケーブルを延ばしてコネクタをジャックに挿した。
ものの数秒で端末にデータが送られると、これまた勝手に待ち受けに設定されてしまった。
「ほーら、これでお揃い♪」
「本気かよ……」
たっぷりと長い溜息をつき、がっくりと肩を落とすアルトに対し、最高にご機嫌なシェリル。
ゲームセンターを出ると、シェリルは楽しげに制服の裾を翻し、アルトに向き直った。
「ねぇ、もう少し付き合ってくれるんでしょう?お腹すいたから何か食べましょ!」
他にも見たいものが沢山あるし、ここで食べておかないと食事をしそびれるわ。
そうシェリルが言い終えるか終えないかの内に、精神的に凹むようなダメージを受けた身体を引きずって、アルトはシェリルの隣について歩く。
次はどんな恐ろしいドッキリが待っているのだろう。
そんな事を考えて、アルトは強かに身震いした。
そんな2人の対照的な姿をモニタリングしていたグレイスは
「あの子ったら相変わらず無茶ばかりするんだから」
と両の口端を上げ、シェリルの意図するように端末から2人のデータだけを消去した。
PR
この記事にコメントする